医療機器開発販売支援サービス SDGs 採用情報 ニュース お問い合わせ
JP EN
ホーム 患者様・ご家族の方へ 心房細動相談所 ~心房細動という心臓の病気について~

心房細動相談所 ~心房細動という心臓の病気について~

Q 心房細動とはどのような病気ですか?

心臓は左右の心房と心室、合計4つの心腔(部屋)が協調して収縮することで効率よく血液を全身に送り出しています。心房細動は心房が正常の律動的な収縮を失い、細動という小刻みに震えるような動きになった状態で、様々な症状や合併症を引き起こします。

Q 心房細動はまれな病気ですか?

心房細動は最も多い不整脈の一つです。弁膜症などの心臓病に伴って発生することもありますが、特段の自覚症状もない一見健康と思われる人にもしばしば見られます。年齢の影響は大きく、加齢とともに心房細動の有病率は上昇し、自覚症状の有無を問わず、多くの高齢者が抱えている病気と言えます(Inoue et al. Int J Cardiol 2009; 137: 102-107)。一方、若い方でも心房細動のために仕事や日常生活が制限されている方も多くいます。どの年代でも女性よりも男性に多く見られます。
60歳代の有病率は1.94%(男性)と0.42%(女性)ですが、70歳代では3.44%(男性)と1.12%(女性)、80歳代では4.43%(男性)と2.19%(女性)と報告されています。

Q 心房細動には、どんな症状がありますか?

心房細動の症状とその程度は様々で、全く症状のない方から強い動悸息切れ、あるいはめまいを感じる方もいます。発生してから7日以内に停止する発作性心房細動では、普段は正常な心拍でありながら突然不整脈が発生しますので強く症状を感じます。一方で、7日以上心房細動が持続する持続性心房細動や1年以上持続する長期持続性心房細動、さらには心房細動が慢性的になって正常に戻ることがなくなった永続性心房細動では、不整脈や頻脈に慣れてあまり強い症状を感じなくなる方が多いようです。

このように心房細動が慢性化すると動悸や息切れなどの自覚症状は軽減しますが、心房細動の最も恐ろしい症状あるいは合併症は心原性塞栓症です。心原性脳塞栓症は脳梗塞の一つで、心房細動では心房の律動的収縮が失われ、心臓内(特に左心耳内)の血流がうっ滞して生成された血栓(凝固した血液)が血流に乗って脳にまで運ばれて血管の目詰まりを起こし、脳への血流が途絶され脳の壊死を起こすものです。この心原性脳塞栓症は、動脈硬化などを原因とする他の脳梗塞と比べて、突然発症し、半身麻痺や意識障害、構音障害(しゃべれない)などより重篤な症状を生じ、生命にかかわることも稀ではありません。仮に一命を取り留めたとしても、直ちに適切な治療を受けないと重篤な後遺症のために寝たきりの状態になることも多く、患者さん本人だけでなく家族や周囲の人々にも重大な社会的あるいは経済的影響を及ぼします。心房細動が加齢とともに増加することから、長寿高齢化を迎えている国に共通の課題とも言えます。

Q 心房細動の原因と注意点は?

心房細動の機序はいまだ完全には解明されていませんが、肺静脈などに発生する異常な高頻度興奮が原因となり、その興奮が心房全体に伝播する際に伝導が遅くなったり不均一になったり、あるいは興奮旋回することでさらに複雑な心房興奮様式となると考えられています。さらに、心房が高頻度の興奮に長期間さらされていると、心房細動が維持されやすくなり、正常な調律に戻りにくくなります。つまり、心房細動の治療や予防においては、心房細動が発生する危険因子を抑えるとともに維持しにくくすることが大切です。
心房細動発生の危険因子として、心不全,高血圧症,年齢,糖尿病,脳梗塞(または一過性脳虚血発作)や心筋梗塞や動脈疾患の既往が挙げられます。したがって、このような危険因子をお持ちの方は、かかりつけの主治医に心房細動についてもよく相談されることをお勧めします。アルコールやカフェインの過剰摂取、精神的ストレス、睡眠不⾜などがあると心房細動が発⽣しやすくなるといわれていますので、これらの要因をなるべく減らすことも心房細動を予防する上で大切です。

すでに心房細動を持っている方は、最も恐ろしい合併症である心原性脳塞栓症の発生を予防することが大切です。発作性よりも持続性,持続性よりも永続性心房細動の方が心房細動である時間が長く、心臓内に血栓を形成する危険性は高いのですが、時々しか心房細動にならない発作性心房細動であっても心原性脳梗塞の危険性はあり、どのようなタイプの心房細動であっても適切な治療を受ける必要があります。

Q どうしたら心房細動と分かりますか?

心房細動の診断には心電図の記録が基本ですが、健康診断などでの2~3秒程度の記録では発作性心房細動の検出は困難です。発作性心房細動の診断には、動悸があった時に自分で記録する携帯型の心電図とともに、24時間連続して記録するホルター心電図などが有用です。さらに、1週間連続して遠隔記録する長期間記録型の心電計もあります。最近は各種ウェアラブル心電記録デバイスが普及してきていますので、発作性心房細動の検出感度が上がることが期待されています。
一方で、原因不明の脳梗塞の原因が実は心房細動による心原性脳塞栓症であったということも多くあり、潜因性脳梗塞あるいは塞栓源不明脳塞栓症として注目されています。原因不明の脳梗塞を放置しておくとさらに重篤な脳梗塞を発症して寝たきりになる危険がありますので、長期間記録型心電図で原因を調べて、適切な治療を受けることが大切です。

Q 心原性脳塞栓症に対して、国を挙げて対応していると聞きましたが?

脳血管疾患(脳卒中)は、国内で150万人を超える患者がおり、年々増加していて、要介護状態となる原因の第1位です。この脳卒中のなかでも心原性脳塞栓症の重大な原因である心房細動を早期に発見して適切な治療を施すことで、脳梗塞の発症や寝たきりとなるリスクを減らすことが可能となります。
多くの方がご存じのように、日本の死因の第1位は悪性新生物(がん)ですが、脳血管疾患と心疾患による死亡を合計するとほぼ同数の死亡数になります。これが理由で、脳卒中・循環器病対策基本法が2019年12月から施行され、国も脳血管疾患と心疾患の予防と治療に重点を置くことになりました。
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/tokusyu/sinno05/2.html

Q 心房細動に対して、どのような治療がありますか?

薬物治療、カテーテル治療(アブレーション)、外科治療があります。

薬物治療

薬物治療には心房細動の発生を抑制して正常洞調律を維持する抗不整脈薬(リズムコントロール)、心房細動の心拍数を抑える(レートコントロール)、そして血栓の生成を抑制する抗凝固療法があります。抗不整脈薬は種々の薬剤が開発されていますが、心房細動の発生を抑制して正常洞調律を維持する作用だけでなく致死的不整脈と言う重篤な副作用の可能性があり、その使用は慎重に行われます。β遮断剤は心房細動の心拍数を抑えるだけでなく、交感神経の緊張を低下させて心房細動の発生を抑制する作用も期待され、持続性や永続性心房細動だけでなく、発作性心房細動でも使用されます。

心房細動では左心耳内に血栓が生成され、それが原因で心房細動の一番恐ろしい合併症である心原性脳塞栓症をおこす訳ですが、抗凝固療法はこの血栓の形成を抑制して心原性脳塞栓症の危険性を低下させます。発作性心房細動でも心原性脳塞栓症のリスクはありますので、脳塞栓症のリスクの程度に応じて服用することが大切です。代表的な抗凝固薬であるワルファリン(ビタミンK拮抗薬)は、定期的に血液検査で血液の固まりやすさ(INR値)を測定することで抗凝固作用を確認、調整できる薬剤で安価です。欠点として、他の薬剤や食事などに影響を受けることが挙げられます。10年ほど前から導入された直接経口抗凝固薬(DOAC)はINR値を測定する必要がない反面、抗凝固作用を確認できないという欠点があります。いずれの抗凝固薬も出血性合併症の可能性があり、外科手術などを受けるときには一定期間の休薬が必要になります。

カテーテル治療

カテーテルアブレーションは、左心房内にカテーテルと言う細い管を挿入して高周波エネルギーを用いて心房の内壁を焼灼して、心房細動の原因となっている肺静脈を電気的に隔離したり異常な興奮の発生源を焼灼して、心房細動を停止させるとともに再発を予防します。カテーテルアブレーションの進歩は著しく、最近では発作性心房細動だけでなく、持続性さらには長期持続性心房細動に対しても一定の効果が得られるようになりました。他に心臓病がない孤立性心房細動あるいは非弁膜症性心房細動ではまず試みるべき治療法です。

外科的治療

外科治療は、心臓弁膜症など他に心臓あるいは大血管の病気で手術を受ける際に同時に施行されることが多く、メイズ手術や肺静脈隔離のように心房細動の発生を抑制して正常洞調律の維持を目的とする手術と、左心耳切除あるいは閉鎖術のように心房細動の発生を抑制することはできないが左心耳内の血栓を原因とする心原性脳塞栓症の発生を予防するものがあります。
心房細動を合併した心臓大血管手術を受ける患者さんでは、心房細動に対しても手術を受けることで手術直後と手術後遠隔期の生命予後が改善することが知られています。
また、他に心臓あるいは大血管の病気がない孤立性心房細動の方でも外科手術により、より確実な心房細動抑制効果が得られます。
いずれの手術も小開胸、胸腔鏡下手術、さらにはロボット手術のような手術侵襲が軽いために術後の回復が早く、手術創が小さいために整容的な利点もある低侵襲手術が広まりつつあります。

監修

新田 隆 先生

1981年日本医科大学卒。日本医科大学、榊原記念病院などにて臨床研修。1991年より米国ワシントン大学留学。2006年日本医科大学教授。心房細動や心室頻拍などに対する不整脈手術、弁形成術などを専門とする。2020年より羽生総合病院 循環器統括顧問、日本医科大学 名誉教授。日本心臓血管外科学会監事、雑誌編集長。心臓血管外科専門医。